図書館で著作権処理やってた人が没年調査ソン in福井 第2回に参加して考えたこと


年末にカレントアウェアネスにて記事が掲載されていた標記のイベントに参加してきました。参加者へのレクチャーをさせていただいたり、参加されたみなさんとお話をしたりととてもよい時間を過ごさせていただいたのですが、個人としては少し悔いの残るところもあったため、考えたことなどをまとめておきます。没年調査ソンに興味のある方はぜひご覧ください。


1. イベント概要

  • 主催:自主勉強会県庁アゴラ「チーム福井ウィキペディアタウン」
  • 協力:福井県立図書館
  • 日時:2018年11月23日(金)15時30分~18時頃
  • 場所:福井県立図書館
  • URL:https://www.facebook.com/events/2270808766486608/

2. 京都と福井の違い

まずは参加者として見聞きしたこと、感じたことなど。あくまで私の気になった点ですので、京都福井の報告記事も読んでいただくとよさげです。


(1)準備的なこと

  • 両者とも国会図書館の中の人の協力を得ているが距離の違いのため程度に違いあり。福井の方が地元で担う部分が多そう。
  • 調査対象人物リストについて、京都は回ごとに更新していたが、福井は同じリストを使用。
  • 同じくリストについて、京都では国会図書館の公開調査対象から抽出したものだけだったが、福井ではNDLA(Web NDL Authorities)から作成されたリストも使用していた。
  • 会場に用意された参考資料は双方とも同程度(ブックトラック数台)だが、福井のほうは新聞データベースは利用不可だった。(サテライト会場@東京の参加者に依頼する形式)
  • 調査対象リスト掲載の人物について、京都のほうが有名人や肩書のある人が多かった。その地域の歴史的な位置づけ、域内の出版産業の状況、高等教育機関や研究所などの量などが関係している?

(2)当日の雰囲気的なこと

  • 今回の福井と京都では福井の方が難しかったとの声があり。没年判明できたかで参加者の達成感がかなり違いそう。
  • そのためか、福井の方が「住所などかなり細かく分かるが没年が分からない!」といった発言が多かった。
  • 年代が新しい人物も含むNDLA由来のリストを使用しているためか、福井では「同僚です」「知っている方です」などリスト掲載者と相対的に距離が近そうだった。
  • 福井は図書館員以外の方が少なかったせいか、京都よりコミュニケーションやサポートを積極的に担う人が少なかったかも。京都はししょまろはんの方がサポートしたり、部活みたいに「ナイスソン!」とかけ声があった。


3. 考えたこと

京都と福井の違いを踏まえたうえであれこれと考えたことです。出発点は「今回の没年調査ソンは難しかった」という認識で、他地域で開催する際にも避けては通れないという意識から、懇親会でも参加されたみなさんとああしてはどうだ、こうしてはどうだと話をしてきたところです。現時点では、下記に挙げた通り(1)調査対象リスト、(2)没年以外の情報の取り扱い、(3)テーマ設定、そして(4)参加者のフォローの4つを掘り下げるとよさそうだと考えています。

念のため一つ補足しておきたいのは、福井の没年調査ソンもとても素敵なイベントで、参加者の皆さんも大変満足されていたということ。反省点・改善点ばかりをあげつらうと批判的なニュアンスが前面に出てしまいますが、そういう意図はありません。あくまでレクチャー講師としての反省半分、著作権処理を業務でしていた外野半分という立場からの「ぼくのさいきょうの没年調査ソン」論とでも思っていただければと思います。


(1)調査対象の人物リストについて

  • 国立国会図書館の著作者情報公開調査ページから、肩書に「福井」または著作者の出版地に「福井」が入っている著者を抽出したリスト(以下「リスト1」。244人掲載。)
  • 国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス(Web NDL Authorities:Web NDLA;E1198参照)(9)から、肩書に「福井」が入っている著者を抽出したリスト(以下「リスト2」。481人掲載。)
CA1939 - 公共図書館の地域資料を活用した没年調査ソンのすすめ~福井県での事例から~ / 鷲山香織

主催者の記事によると福井のリストは上記の2つの情報源からなっているとのこと。1回目と2回目では同じリストを使用しているとのことですので、回を重ねれば没年が判明したものから抜け、難易度の高い対象者が残っていくことが予想されます。

この点、回を重ねることに追加の情報や新しい調査対象者をリストに加えれば、逆に調査がしやすくなったり、難易度の高い調査対象者だけが残ることを回避できそうです。例えば上記のように「福井」という語だけでリストを作成した場合、出版地等に都道府県名が記載されていない資料に紐づく著者を拾うことができません。以下のような観点に基づいたリストの洗い直しを実施のたびごとに継続的に進めていくことで、それぞれの地域や目的に応じた没年調査ソン用リストを育てることができそうです。館の業務との折り合いという点では、新潟県立図書館などで自館のデジタルアーカイブ内で国会図書館のデジタル化資料を公開しているように、館のウェブサイトにて館の公開調査と国会図書館の公開調査を兼ねてリストを公開する、などできるとよいかもしれませんね。

  • 「福井」だけでなく抽出に使用するキーワードを加えてリストを追記する。例えば「福井」だけでは高橋三之助(出版地が東京の資料『敦賀の沿革・敦賀名所記』の序文を執筆)のような人物をすくえない。①基礎自治体名や旧地名など都道府県より細かい地名、②地域特有の姓、③その他郷土資料の目録で使用している件名など地域特有の固有名詞を加えるとよさそう。
  • 前回の没年調査ソンで判明した情報(生年、住所、肩書等の関連情報)を追記して情報を蓄積していく。((2)と関連)
  • 福岡県立図書館の「国立国会図書館デジタルコレクションに含まれる福岡県内で出版された図書」のように、図書館の業務として国立国会図書館デジタルコレクションに含まれる地域に関係する資料リストを作成し更新する。資料リストができていれば、そこに紐付く著作者を抽出することで調査対象者リストを作成することができる。

(2)没年以外の調査結果の扱い

また「没年調査ソン」はその名の通り没年を判明させることを主な目的としています。イベント後の国会図書館への報告も没年や生年等の情報を主な対象としているようで、参加者側も「今日はひとつは見つけたい」「ひとつ見つかったので良かった」という意識を持っています。こうしたゲーム性も没年調査ソンの楽しいところではあるのですが、反面、没年が分からなかった場合、成果がなかったとも思ってしまいがちです。

この点、今回の福井での体験から、肩書、経歴、血縁や交友関係、連絡先といった没年以外の関連情報についても主催側で記録しておくとよいのではと考えました。理由としては以下の通りです。雑多な形式の情報を選別して蓄積して管理をするというのはなかなか大変な作業ではあるのですが、図書館の得意分野のはずでもあるので、業務とも絡めて実践されるとよさそうです。

  • 刊行物の量は地域によって偏りがあり、該当人物が活躍した地域によって文献情報の残り方も異なってくる。人物によっては文献による没年調査より別の手段のほうが有力な場合がある。((3)参照)
  • 一般的な人物事典等で調査をした公開調査リスト上に関連情報の記載が少ない人物については、まずは関連情報を充実させつつ継続的に取組む必要がある。
  • 没年が不明な場合でも関連情報を蓄積することで参加者の成果が可視化され、達成感を得られる。
  • 少しずつ情報が蓄積された著作者リストは、館の選書やレファレンスのツールとしても利用できる。

(3)国・都道府県・市町村

懇親会で伺った意見として、都道府県ではなくいっそ市町村レベルで実施してしまっては、という話がありました。(1)で述べたように、市町村レベルの視点を持つことですくいあげられる情報があること、また(2)で触れたように該当地域でイベントをするなら文献情報を経由するよりも直接コンタクトをとってしまったほうが早い場合もありそうだというのが主な根拠です。

国会図書館で実施されている調査が一般的な/文献を用いて/一か所で集中して行う調査であれば、その方法でみつからないものを市町村レベルの個別の地域資料や/人を介した直接的なアプローチで/分散して実施するというのは案外筋が通っているかもしれません。没年調査ソンはあくまで文献による没年調査を中心にすえた企画ですが、ほかの手段、すなわち文献以外の情報源をもとにした調査や、直接のコンタクトによる許諾依頼などの手段を検討するのもよいのかもしれませんし、それには市町村レベルでのほうが都合がよい場合もありそうです。(もちろんそれはその地域の事情や実施する人によるとは思いますが…。)

とはいえ、全国に目を向けた場合、研究機関や高等教育機関を多数抱えていたり出版が盛んだったりする地域やそうでない地域、域内に複数の都市圏が存在する都道府県もあれば一極集中しているところ、都道府県立図書館が地域資料の収集・組織化に積極的で没年調査ソンを開催するのにうってつけなところもあれば、むしろ他所のほうが…といった地域など、状況は様々です。没年調査ソンの対象とする範囲、また活用する情報源の種類や進め方などは、上述した2つの考え方の間で最適なバランスを探すことになるのでしょうね。少なくとも、大規模館にて先述した「一般的な/文献を用いて/一か所で集中して行う調査」をずっと実施してきた自分にとっては、今回の福井県で都道府県による違いや考え方が見えたのは大きな収穫でした。


(4)調査前のレクチャー等について

最後に、主に個人的な反省点です。今回、開催の1週間前にレクチャーの講師を依頼されたのですが、福井側で準備している資料などについてきちんと把握をして、参加者にお伝えすべきでした。まだ未調査のリストを用いる場合や新聞データベースなどの火力の高いツールがある場合はともかく、今回、この点を外したのは痛手だったように思います。既に国会図書館で調査が済んでいそうな資料もあれば、会場など地元にしかなさそうな資料もある中で、どのあたりがねらい目なのか私から参加者へ伝えることで効率をあげられていたはずです。

また、レクチャーをする以上は調査中もファシリテータ的な視点が必要だったかな、とも思います。京都の際はししょまろはんの方々があまりにも自然に参加者をフォローされていたので見逃していましたが、今回は自分がそうした役回りをすべきだったようです。


4.最後に

京都と福井の両方で参加して感じたことなどをあれこれ書き出してみました。著作権処理や没年調査ソンをしたことがない方にはちょっとピンとこない内容かもしれませんが、そういう方はぜひ一度どこかで没年調査ソンに参加したり、開催していただければと思います。

まだ京都と福井を体験したというだけですが、全国的に見た場合には国会図書館との距離感や著名な著作者の数という点で京都よりも今回の福井の方がより一般的な例に近そうです。また、そういうことも含め没年調査ソンは地域の状況に合わせてまだまだいろいろやり方があるんじゃないかな、というのが今のところの率直な感想です。今後、都道府県でなく市町村、公立図書館だけでなく大学図書館、あるいは地域でなく主題で対象者を絞った方法など、いろいろな没年調査ソンが開催されることを楽しみにしています。


余談

トップにお掲載していますが、今回、福井県の没年調査ソンに参加するにあたって没年調査ソンのロゴ的なものを作ってみました。以下にファイルを置いておきますので、もし没年調査ソンを開催するよ!という方がいらっしゃったらご自由にご利用くださいませ。また、没年調査ソンのお誘いやご相談などあれば@yaskohiまでご連絡くださいませ。


参考情報

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